『ジャーニー 横浜→(ソウル)→金沢→渋谷』ライブレポート 細田成嗣

2022/08/16

 

「終わりのない旅のドキュメント、あるいは未完成なものの生きた蠢き」

 

延々と再開発が続く街、渋谷。そこは、つねに未完成であり続けるような音楽を奏でるのにうってつけの場所かもしれない。

8人組バンド・東京塩麹による単独ライヴ『ジャーニー 横浜→(ソウル)→金沢→渋谷』が、2022年8月15日に渋谷WWWで開催された。これまで横浜と金沢で行われ、コロナ禍で中止となったもののソウルでも企画されていた「ジャーニー」シリーズは、バンドを率いる額田大志によれば「作曲のプロセスを見直すこと=完成しない曲を作ること」がクリエーションの起点となっているのだという。そのため、各都市で公演を重ねるたびに楽曲は変化し続け、つねに未完成な状態をドキュメントするかのように音楽は奏でられる。渋谷編では、この街をテーマにした建築家・渡邊織音による自作楽器も導入された。

ライヴは全16のセクションに分かれたシームレスな楽曲が50分にわたって披露された。シンセサイザーのうねるようなドローンが印象的な冒頭から幕を開けると、ミニマル・ミュージックの手法を援用した東京塩麹ならではのストイックな演奏が続く。ときには歌が歌われ、ギター・ロック風に激しさを増し、あるいはパーカッシヴなアンサンブルが荒れ狂い、緻密だが陶酔的なグルーヴが輪をかけて押し寄せる。多数のパイプを組み合わせた自作楽器は、フロム・スクラッチを彷彿させるユニークな音色の打音のほか、あたかも肺呼吸する生物が声を絞り出すかのような笛の響きも鳴らす。最後にアンコールを兼ねて、「Me」を含む新曲が2曲披露された。

演奏中、ステージ後方のスクリーンと客席の両側の壁には、観客を取り囲むように、メンバーの一人・高良真剣が手がけた映像が投影されていた。水面の揺らぎを思わせるオブスキュアなイメージから、シリーズのテーマである「旅」を連想させる風景、あるいは図形のアニメーションや街中の看板などの文字を切り取った反復的コラージュまで、映像の内容は様々だ。なかでも図形のアニメーションが特徴的だが、映像の動きと演奏が強く連関しており、まるで演奏を指示する図形楽譜のようにも、音響に反応して映像がリアルタイムに動いているようにも見える。観客は映像と音響が連関して有機的に蠢く空間=ライヴハウスに乗って50分間の旅に出ていたとも言える。

「ジャーニー」シリーズは旅する東京塩麹のドキュメントであると同時に、それ自体が一つの旅行でもあるのだ。映像がリアルタイムに蠢いているように見えたのは、音響が事前に用意された音源の再生ではなく、あくまでも生バンドによる人力演奏だったことによるだろう。そしてそのような一回的で身体的な魅力を湛えた音楽は、どこまでも未完成であり続けながら、どの瞬間も新鮮な、生きた驚きへと開かれている。

文・細田成嗣
写真・コムラマイ


2022年8月15日(月)

東京塩麹 単独ライブ
『ジャーニー 横浜→(ソウル)→金沢→渋谷』@渋谷WWW

出演:東京塩麹

作曲:額田大志
映像・宣伝美術:高良真剣
楽器製作:渡邊織音
テクニカルディレクター:イトウユウヤ
音響:山川権(MR SOFT LLC.)
制作補佐:鈴木啓佑

企画・制作・主催:東京塩麹
共催:WWW