1stEP『live well』リリース記念座談会
2019/11/17
8人組バンド・東京塩麹の新作EP『live well』が11月3日にリリースされた。テクノミュージックやアンビエントミュージックに通じる質感を、人力で演奏することにこだわった一作だ。
リリースを記念して、作品毎に音楽性を変容させながら活動を続けてきた大所帯バンドの現在地を、メンバー全員が語る。
構成:鈴木啓佑
撮影:コムラマイ
協力:城崎国際アートセンター
──EPができるまで
額田大志(作曲/キーボード):それでは座談会を始めましょうか。こうして8人揃って話す機会も中々ないので、それぞれの視点から作品が覗けたらと思います。まず最初に、作曲者目線の『live well』は、過去作と比べても多くのチャレンジを経た作品になったのだけど、プレイヤー目線での変化は感じましたか?
中山慧介(ピアノ/キーボード):そうだね、今回はトラックっぽいイメージがかなり強くて、ある意味一番ミニマルだなぁと思った。今までの作品では、個々のフレーズだけでも音楽的に聴こえたけど、今作は複雑なフレーズを重ねた先に、ようやく音楽になるというか……。
額田:これまでの作品は、スティーヴ・ライヒ(NY在住の現代音楽家)から派生した「フレーズを重ねていく」タイプのミニマルだったと思うんですけど、今作はアンビエント的というか、音像にこだわった作品ですよね。最近、個人の音楽制作の仕事で打ち込みもやるようになって、質感ベースで音楽を作ることに関心が向いたタイミングでした。
テラ(ギター):なるほど
渡健人(ドラム): 過去作との一番の違いは「音色へのこだわり」なのかなぁと思いました。トラックに近いというか。音色、音質、質感みたいな。今作は、そういう部分が額田さんの中では具体的な4曲だったのかなと思います。 レコーディングのときの音色も、これまでとより細かく指定があったりとか。
額田: バンドは2017年の春まで固定メンバーではなかったので、音色を細かく指定をする余裕がない、みたいなことも大きかったと思う。固定メンバーになって2年くらい経ってようやく、メンバーのそれぞれのプレイアビリティがわかってきて、個々の音色にまで拘れるようになった段階かな。
渡辺南友(トランペット):大切。
テラ:確かに、ギターがレコーディングをしてきた中で、音色的に最もギターぽかったなって思いました。 1stアルバムの『FACTORY』は、ギター以外の楽器でも代用できる譜面をギターで弾いている感じが強くて、2ndアルバムの『You Can Dance』は、エフェクターで歪ませたりしたけど、無理矢理変な音を出させようとしてる感じが強かった。でも今回は、ディストーションを使ったとしても、曲に馴染ませるようにアレンジしていた気がして、肩の力を抜いてギターという楽器に向き合って譜面を書いたんだろうな、という感じがしました。
額田:「力を抜く」というのがポイントかも。過去作は、聴いている人に驚いて欲しいっていう気持ちが強かったから、ギターも変な音を出す部分を担うことが多かったけど、そこから抜け出して、少し歳を経たサウンドみたいな…笑
渡健人:角が取れてきたみたいな感じね 笑
額田:初見はどう?
初見元基(ベース):んー、楽器の演奏というより曲的に盛り上げ方が変わったなっていうのはちょっと思った。前だったら1stアルバム『FACTORY』の”そこはか”’とか、最後にバァン!となって終わり良ければ全てよし!みたいなのがあったけど、今回は展開的に思いっきり変わるっていうよりも、グラデーション的に変わっていった感じがした。まぁ、若干歳を経て思考が変わったというか、求める派手さが変わったみたいなのは思ったかな。
額田:EPの4曲の内、2曲は盛り上がらずに終わるんだよね。
渡健人:まぁ、どの曲もそんな盛り上がってないですけど 笑
一同:(笑い)
額田:でも聴き返してみると、過去作の楽曲は最後がほぼ確実にトゥッティ(全体でのアンサンブル)なんですよ。
渡辺菜月(トロンボーン):うん、そうね。
テラ:最後にトゥッティがくるように、前半は引き算的に作っていた感じですよね。
額田:そうそう。今回はトゥッティを真ん中に持ってくるのを意識的にしてみたり。
渡健人:そこも、僕はトラックメイカーっぽいなと思いましたね。トラックを作っていくと情報を増やして、曲の終わらせ方が見えなくなっちゃうから、最後は引いていくっていうダイナミクスになりやすい。そういうところも、今までとは違う音楽になっていると思います。
額田:うん。タカラくんはどう?
タカラマハヤ(パーカッション):まぁ、僕は作曲の仕方に関してはなんとも言えないけど、確かに増やしていくより減らしていく方が面白いなって感じることはあるので、それには親近感を感じるというか…笑。いいなぁと思います。
一同:(笑い)
タカラ:あとは音ですね。音の感じとして、これまでは全員のダイナミクスを等価に扱うことがあったと思うんですけど、今回は音の大きさとか扱い方がバラバラになってる。これはわざとしてるんだなぁと思ったんだけど、音が空間的に配置されてる感じがする。だから、昔はライブハウスのPAさんに「全員の音を均一に聴こえさせたい」みたいなことをよく言ってたけど、今はちょっと違う感じ。それぞれの役割があって、この人はすごい遠くからいて、この人はすごい真ん中にいてみたいな。そういう音の聴こえ方っていうのか、音の広がりのイメージを明確に考えてやろうとしてるんだなと思いました。
額田:楽譜から作っているのは変わらないのだけれど、全体の音量記号がフォルテのときに、あえて一人だけ弱く演奏したり、そういうケースも多いかも。だから、各音色の質感を調整していくトラックっぽい作り方と言うか……譜面で作ってるけど、トラックっぽく作るみたいな…… 。
渡健人:もう、トラックで作ればいいんじゃないですか?
一同:(笑い)
テラ:でも「普通だったら打ち込みで表現することを人力でやる」っていうコンセプトは、1stアルバムの『FACTORY』から一貫していますよね。
渡辺菜月:確かに。
額田:譜面で作るのは、なんだかんだ意味のあることだと思っていて、作っているときに音符が目で見えることが大事なんだよね。トラックで作ると、身体で感じる音楽に近くなってしまう印象があって。
タカラ:やっていくうちに内容も変わっちゃいそうだしね。
額田:そうそう。身体で感じるだけでなく、目でしっかりと鳴っている音を追える状態が、作る段階にあるっていうのはすごく大きいことかなぁと。
タカラ:譜面で作ってる特有の硬さは今作もまだあるなって思った。質感重視とは言えど、質感に寄っている訳ではない。
額田:例えば、EPの3曲目”the sea and elephants”だと、いかにも即興演奏のような雰囲気があるけど、実は全部譜面に書かれているとか。そういうところかな。
渡健人:トラックを作るときって、どこの拍で何の音を鳴らすかっていうよりは、全体で鳴ったときの気持ち良さで判断することも多いと思うんです。音の配置に対する意味が、トラックだと感覚的に「気持ちよくサウンドさせる」ところが大きいのかなと思っていて。でも額田さんの場合は、どの拍のどこで何が起こるかっていうのを、ある意味狙って作ってるところがあると思いました。コントロールされてるというか。だから、本能ではなくて意図的に音を操作していて、それは塩麹らしいかなぁという気がします。
渡辺南友:うん。だから難しいよね 笑
額田:譜面的には簡単になった気もしているけど。
渡辺南友:譜面を最初に見たときの難しさは変わらないですね。感覚的にわからないんです。だから3曲目の”the sea and elephants”とかは体で覚えれない。感覚的に入ってくるフレーズとは違うものが、譜面ではあるじゃないですか。ライブだと特に難しい。
額田:うん。
渡辺南友:あと今作みたいな音源を、ライブで再現することを考えるのは面白いなと思っています。例えば”live well”のレコーディングのときに、バスドラムの音量を小さくして録ったじゃないですか。でも後々「このバスドラムのテンションは、ライブだと合わないね」ってなって、ライブとレコーディングでアレンジを別々にしたり。今作で一気に、ライブとレコーディングが違うものになったと思った。
中山:あー。
渡辺南友:聴いてて気持ちいいのは、もしかしたらライブなのかなぁと思うし。一方で2ndアルバム『You Can Dance』のときとかは割とガツガツ作ってって、サウンドもわかりやすいというか……そういうものとしてレコーディングもしていて、ライブもその方向性だったと思うんですけど。今作は音源の構造がより複雑なので、これまでと違うライブの見せ方を考える機会にもなって、また一つ広がったかなと。
──過去作との違い
額田:なるほど。菜月さんはどうですか?
渡辺菜月:まぁ、みんなの意見と感じてることがほとんど同じなんだけど、今回のアルバムは全曲、楽器が重なっていくスパンが長いと感じてて。曲の分数とかはこれまでと比べても変わりはないだろうし、むしろ短いものもあると思うけど。なんかこう、ある一本の線の上で継続的に行われていることが、聴いててわかる感じ。譜面としては1stアルバムや2ndアルバムと比べて、技術的な面からみたら単純になっているけど、質感をこだわることによって、自分の中の吹き方とかニュアンスとかも研究する場にはなりましたね。
タカラ:うん。
渡辺菜月:だから今回のEPは、今までのレコーディングとは別の感覚で演奏してました。。
渡健人:難しさの質が変わりましたよね。
渡辺菜月:そうそう。
渡辺南友:全体感が、わからなかったりするんですよね。自分でやってて。
渡健人:確かに。
渡辺菜月:みんなで音を出したときにやっと全体像が見えて、そこから音色どうする? 質感どうする?って徐々に全体像が見える感じだった。
渡健人:そういう意味だと、リハーサルの重要性が実は増してるんじゃないかなとも思ったりしますね。サウンドの方向性はシュールでストイックな感じになったけど、実は一番バンドっぽい作品なのかもしれないですね。
渡辺南友:作り方としてはね。
渡健人:うん。今までは譜面があって、それがクリアできればとりあえずオッケー! みたいな、ちょっとゲーム性の強い感じがあって。でも今回は別に……言ってしまえば誰でも演奏できる譜面だと思うんですけど、それを東京塩麹の音楽として聴かせる為には、メンバー全員の理解度が高くないと難しいのかなと思います。
額田:うんうん。
テラ:確かにデモ音源を聴いてるのと、実際に演奏しながら聴いてるので全然違いますよね。音出して初めて、あ、こういう意図 だったんだ、ってわかります。
──時代に逆行する音楽
額田:ここからは、改めて曲ごとの話をしていきたいと思います。1曲目に入ってるのが、”live well”っていうリードトラックなんですけど……。
渡辺南友:これから始まるの渋いですよね 笑
一同:(笑い)
額田:演奏していてどうかな?
渡健人:まぁあの、スルメ曲みたいな……感じ 笑
テラ:でも中盤にシンセベースが入ってきたとき、なんか……キター!みたいな。
渡健人:やっとね。
渡辺南友:これがあるから美味しいみたいな 笑
渡健人:ある意味で、今の時代性とは真逆の音楽だなと思いますね。特に”live well”。このSNSの時代に……。
額田:笑
渡健人:展開が早いとか、曲自体も短いとか、最後まで楽曲を聴かせるために色々な要素を盛り込むことって、テクニカルな意味でも今の時代は普通だと思うんですけど、それを一つもやらないっていうのが、逆に新鮮で面白い。
額田:でも……四つ打ちから始まってるから、踊れるんじゃない?
一同:(笑い)
テラ:四つ打ちを過信しすぎです 笑
タカラ:皮肉っぽいよね 笑
渡健人:そう!皮肉っぽい!”live well”自体も、タイトル含めてちょっと皮肉っぽい気がしますね。
タカラ:ちゃんと最初に四つ打ちが出てくるんだけど、テンションの低いギターのリフが入って、そこからの展開も遅い感じが。
額田:展開遅いかな?
タカラ:遅いっていうか、なんだろう。「これ……結構、気持ちよくないですか? 」みたいな。
渡健人:「低温ミストサウナ」みたいな感じしますね 笑
渡辺菜月:あぁー 笑。でもなんか、さっきテラが言ってた「シンセベースが入ってくるところがいい! 」とか、そういうのが明確に見えるのがいいよね。例えば、もう一回”live well”を聴くときに、あのシンセベースのところまで待つ時間がなんか……いいなぁとは思う。おいしい感じ。
渡辺南友:おいしい 笑
額田:でも、リニアな流れの中で「ここは聴かせどころだ」とわかるのは大事なことだと思ってる。今の時代の音楽の流れとは真逆だけど、その時間があるから成立する音楽がある。待つことの良さみたいな。
渡健人:まぁその、一音が鳴ったときの尊さみたいなのは、過去作より強いと思います。シンセベース自体の良さと言うよりは、あそこで入ってくるからいいみたいな。
──アンサンブルをしないとわからない
額田:さて、次の曲が”techniqe”。
タカラ:この曲はEPバージョンって感じがする。
額田:ライブで演奏するときよりもテンポが遅いから?
タカラ:いや、EPはライブに比べて独特じゃん。だいぶ印象が違うなと思う。
額田:そういえば、この曲も”live well”と一緒で、テンション低めに録音したんだよね。
渡健人:ソフトにね。
タカラ:そう。ライブのときと印象が全然違う。
渡辺南友:ライブでやるとドライブする感じがありますよね。
渡健人:うん。
渡辺菜月:どっちかといえば、アゲアゲな曲っていうか。
一同:(笑い)
渡健人:録音とライブの違いは、さっき南友も言ってたけど、すごいありますよね。録音ではかなりソフトに叩いていて。まぁミックスの段階で音量変えたりコンプレッサーかけたりするので、ソフトさがどこまで伝わるかはわからないですが、それを意識して繊細にやってるのは、いいものだなぁと思います。でも、それをライブでやろうと思うと、どうしても無理が生じてしまうというか……。ソフトにやるっていうのは、無理してテンション下げるみたいなこともあるんですよ。でもそれって、ライブで見ていて楽しいのかな?って迷いもあったりして。
渡辺南友:「ただ、テンションが低いだけ」になっちゃうみたいなね
渡健人:もちろん僕らの技術の部分は大きいですけど、ライブでソフトに演奏するのって難しくて。
額田:ベースも大変そうだったよね?
初見:うん。なんか譜面的には全然ソフトじゃないのに、ソフトに弾け……みたいな。
一同:(笑い)
初見:あとはなんだろう……”technique”こそ、ずっとベースは同じことを演奏しているから、全体像が全く把握できなかった。
額田:そうだね 笑
初見:意外と組み立ててみたらかっこいいなみたいな。
渡辺南友:確かに、ベースはほとんど「ミ」と「レ」しか弾いてないですよね。
初見:そう。本当に同じことしかやってない、「ミ」と「レ」……あと休符。だから最初に譜面を見ても全く理解ができなかった。
中山:自分の譜面だけでは何もわからないね 笑
初見:ずっと一緒じゃん……って。
テラ:“technique”は”Factory”(1stアルバムのリード曲)的なかっこよさがありますよね。隙間を埋めるフレーズの良さというか。ギターでいうと、最初のフレーズの役割と最後のトゥッティでのギターの役割が全然違って、そういう構造の良さがいいと思います。
中山:うんうん。
額田:この曲とかまさに、譜面が大前提というか、スタジオに集まって皆で作っていくようなスタイルだと生まれないですよね。
渡健人:うん。
額田:「ベースはずっと裏打ちでお願いします」とか言い辛いし……
一同:(笑い)
額田:作曲者のエゴが詰まった曲になったと思います。
タカラ:“live well”と違って、テーマ的なメロディーもないよね。キーボードとかホーンセクションにリフはあるけど。
渡辺南友:なんか、全部がリフ!みたいな感じですよね。
タカラ:そう! 曲の構造がリフだよね。本当にメロディーがなくて、なんていうんだろう……修行しているみたいな 笑
渡健人:確かに”techniqe”って人によってどこをピックアップするかが違うんじゃないかって思うんですよ。ある意味全員がテーマを歌っている。
タカラ:後半にかけて、どんどん歌えるフレーズが出てくる構造だよね。
渡健人:今までの東京塩麹だったら、ここまで時間をかけてリフを完成させるんじゃなくて、もっと早い段階で完成させちゃって、次の展開にいくことが多かったと思うんですよ。一部、二部、三部みたいな。でも今回は要素を完成させるまでのスパンが長くなった。そして、ただ長くなるだけじゃなくて、細やかな変化を少しずつ入れてく感じがありました。
タカラ:曲が変化していく時間が長くなった分、一つの変化がより小さくなった感じだよね。
──音楽ではなく、音を聴く
額田:三曲目は”the sea and elephants”ですね。
テラ:この曲こそまさに、さっも話題に出た「質感こそ命!」 みたいな感じですよね。
額田:この曲と”tiny journey”が、過去作と特に印象が異なる楽曲だと思う。録音をバンド専属のエンジニア・山川権さんに担当してもらったのも大きかったかな。今作は、レコーディングに過去作の3倍くらいかけて録って、時間の制約的にできなかったことは、ほぼ全てできたと思う。あとマスタリングは初めてご一緒した橋本陽英さん(aubrite mastering studio)で、上手くいきました。何が上手くいったか言葉で表すのは難しいんだけど、単純に相談に乗ってくれたり……笑。密度の高いコミュニケーションが、全セクションで取れたなと思いました。
テラ:マスタリングはめちゃくちゃ大事ですからね。
渡健人:“the sea and elephants”はそれがかなり如実にでる曲ですよね。本当に音色だけ! みたいな曲じゃないですか。一応リズムも考えられてるけど、多分聴いた印象としては「音」があるだけみたいな。展開もあるのかないのか正直わからない。ただ音が鳴るんだっていう原始的な曲だと思います。
額田:この曲はジャンベも入らないし、ピアノもないよね。エレピでもなくて……
中山:ボォーーーって、ずっと鳴ってる
一同:(笑い)
渡健人:シューゲイザー感がちょっとありますよね!
タカラ:メロディーに着目すると、この曲が一番抽象度が高い。抽象度が高いまま進んでいく「アートっぽさ」みたいなのがありながら、途中の展開ははっきりしてて、それが……エモい!笑
渡健人:何故かエモいですよね。
タカラ:あれがいいなと思ってて。なんかその、展開が遅いというか、入ってくるのがワンテンポ遅い感じがいい。ここでブラス入ってくると思ったら「あ、まだか!」 みたいな、あの待ち焦がれる感じが。
渡健人:僕この曲が、収録されてる中で一番好きですね。とにかく歌えないんですよ 笑。でも、言葉にできないけどエモいっていうのは間違いなくて。
渡辺南友:音を聴いてる感じだよね。
渡健人:そうそう。純粋な感じ。
テラ:展開的な話だと”live well”と同じで、この曲も最後の方にベースが入ってきたときに、すごい高揚を感じるんですよね。”live well”のシンセベースまでの待ち時間を、より長くしたみたいな。その待ち時間があったからこそ、良さを感じるのかなぁと思いました。
渡健人:すごいマニアックな部分なんですけど、最後の方で一瞬、バスドラムが四つ打ちになるんですよ 笑
テラ:あぁー
渡健人:あそこが……まぁ好きなんですよ!笑
一同:(笑い)
渡辺南友:1小節でやめるんだよね 笑
額田:最近、四つ打ちにしてから、すぐにやめるのが個人的に流行っています。
一同:(笑い)
額田:真面目な話だと、昔できなかったことが、最近できるようになったっていうのが大きいなと思います。こういう「一瞬、四つ打ちを出す」みたいな面白さって、バンド初期も追求していたんですよ。でもあんまりうまくいかなくて……。
渡辺菜月:へー
額田:だから今になってできるのは、作曲と演奏の技術はもちろん、コミュニケーションの積み重ねのとても大きい。初期にやりたかったことが、ようやく今ちゃんと意思疎通して、できてる感じですね。
中山:うんうん。
額田:空間系というか……抽象度が高い音楽をバンドで生み出せるようになったこと。これは一つの指針になっていく気がします。
──質感と展開
額田:最後は”tiny jouney”ですね。
渡辺南友:ライブでは、ほとんどやらないですよね 笑
一同:(笑い)
額田:マスタリングに一番時間をかけましたね。かなり試して、マスタリングが一番ハマった曲だと思います。
タカラ:うんうん。
額田:ドラムのボトムをかなり上げてもらったり。
渡健人:ベースも印象的ですよね。
テラ:個人的には管楽器が入ってくるところが好きですね。ギターが入るまでの2分半くらい、質感が全く変わってないじゃないですか。でも、なんか展開してる感じがあって。東京塩麹の曲って、曲のどこかでドラムとベースが抜けて、ガラッと展開を変えてから再構築していくことが多いと思うんですけど、この曲に関しては、ずっと同じ質感のまま、なんとなく変化していくのが、個人的にすごくいいなと。
渡健人:今言われて気づいたんですけど、ドラムが本当に最初から最後までいる曲って、東京塩麹だと”tiny jouney”くらいしかないんですよ。
テラ:そうそう。
渡健人:しかも”tiny jouney”ってドラムは本当に一個のモチーフしかないし……笑
額田:うんうん。
渡健人:ずっとやってるんですよね、タムの動きを。それにスネアが入ったり入らなかったりするんだけど。
タカラ:減らしていく感じね。
渡健人:そう。でも、実はドラムが重要な曲なのかもしれないと思った。ドラムが、曲全体の質感を統一してる。
テラ:それがあるから、後半のギターリフが際立って聴こえる。
渡健人:ドラムがタムを複数使った音程感のあるリズムを作ってるので、展開が早くても曲として成立してる気がしますね。
──飽きない活動を続けるために
額田:今作を踏まえて、これからやってみたいことはありますか? 個人的には海外、特に日本と距離の近いアジアの音楽シーンと交流していきたいと思っていて、色々動いているところです。音楽の内容としては、意外とメンバーの反応が悪くなかった気がして、このままの方向性で突き進んでいければと……笑
一同:(笑い)
テラ:反応が悪かったことなんてあるんですか?
額田:そんなに記憶にはないけど、例えば”techniqe”をリハーサルに持っていくときは、ちょっとビビるというか……過去の楽曲と全然違うから「これでいいの?」 みたい言われないかなとか……笑
テラ:良くも悪くも、デモ音源を聴いただけだと全体像が掴めてないから、とりあえず合わせてみたら。「あぁいいじゃん!」 みたいになるので大丈夫ですよ。
渡辺南友:こういう風になるのか! っていう 笑
渡健人:曲のオチが譜面とデモ音源だけだと見えないから、とりあえずやってみないとわかんない 笑
渡辺菜月:方向性として、いつも以上にじっくり時間を掛けるのは良かったよね。このバンドにしっくりきてることなのかなとは思った。
渡健人:作り方とか、曲のあり方をみんなで考えないといくのは、バンドとしてすごい良いことだと思う。何も知らない人たちが、今作の譜面をただ演奏しても面白くないと思うし、譜面で作ってる音楽だからこそ、僕らでしかできないバランス感で演奏するのは、とても尊いなぁと。内容はまぁ……そのうちなんとかなるんじゃないですか 笑
額田:実は毎作、結構変わっているんだよね。
中山:うんうん。
額田:一年単位くらいのスパンで、興味が移っていて。
渡健人:意外に早いですよね。
額田:だから、あんまり同じようなことはやらないというか……まぁ同じようなことをやる音楽性のはずなんだけど 笑
一同:(笑い)
額田: お客さんとしても、内輪としても「飽きない活動」というのは大事だよね。音楽としての面白さはもちろんだけど、バンドは生物だと思うから。